近年,リアルタイムの洪水予測やハザードマップによる事前防災,気候変動に伴う洪水リスクへの適応などのニーズが高まる中で,詳細で正確な氾濫情報が求められている.河川堤防は洪水の範囲や水深を規定する重要な要素であるが,堤防の高さや位置に関するデータが十分に開発されていないという問題がある.日本国内においては,国交省が管理する一級河川であれば,定期測量によって堤防の位置や高さが把握されているが,中小河川においては,管轄する自治体の河川の維持管理費が慢性的に不足していることから,既存の堤防の管理が十分でないことがあるという現実がある.また,過去に作られ現在は控堤として活用が期待されている堤防についても,そのデータが十分に管理されているとは言えない.一方で,Sasaki et al. (2023)は,高解像度のデジタル標高モデル(LiDAR DEM)から,複数の河川堤防の条件を満たす場合に,自動で堤防の位置と高さを抽出するアルゴリズムを提案している.提案されたアルゴリズムは一級河川である鬼怒川を対象として検証が行われており,主な対象は河川中心線から近い位置に存在する連続堤であった.日本国内では,高解像度のLiDAR DEMは国土地理院により無償で提供されているため,この手法を中小河川の堤防や控堤に適用できれば,地方自治体にとっては低コストで堤防の状態を把握する貴重な手段となるほか,氾濫シミュレーションで考慮されていない霞堤や控堤のデータセットを作成することが可能となる.そこで,本研究では,Sasaki et al. (2023)によって提案されたアルゴリズムを中小河川や控堤・霞堤でも使用できるかどうか調査し,必要があれば改良を加える.また,この堤防抽出手法を日本全域に適用することにより,一級河川本流の本堤のみならず,中小河川や支流の堤防,さらに控堤となっている旧堤防を検出する.一級河川と異なり,正解データを得ることが難しいため,結果をいかに定量的に検証するかが課題であるが,いくつかの地域でGoogle Mapと見比べることで確認したところ,中小河川や旧堤にも適用可能であることが確認された.この手法をさらに改良し,日本全域における堤防データベースを完成させることにより,中小河川の堤防管理や,氾濫シミュレーションの精度向上に貢献していきたい.