交通渋滞緩和の交通施策の1つとして,自動車から公共交通の利用を促進させるための交通施策(モーダルシフト)が注目されている.従来モーダルシフトは公共交通の利便性向上を中心に議論されてきた.具体的には鉄道の相互乗り入れや,LRT(Light Rail Transit)等の補完的な交通機関の導入等が検討されていた.近年ICT(Information and Communication Technology)の発達により,公共交通や移動者の現状を把握し,それに応じて公共交通や移動者に働きかける新しいモーダルシフトが登場しつつある.本研究ではこれを従来のモーダルシフトと区別するため,本研究では適応型モーダルシフトと呼ぶ.適応型モーダルシフトが従来の交通施策と比較して,どの程度効果の違いが現れるのかはこれまで議論されていなかった.そこで本研究では,従来の交通施策のうち道路建設,ロードプライシングをとりあげ,適応型モーダルシフトとの定量比較を行った.定量評価を行うためにこれらの便益を算出可能な評価モデルを開発した.本評価モデルは数十年後までの投資対効果について,車利用者,自治体,付近住民,公共交通事業者のそれぞれの視点で評価できるようにし,そのために道路交通流のモデル,各交通施策に対する反応モデルを組み込み,いくつかの実データからモデルのパラメータ推定を実施している.本評価モデルを用い,豊田市の統計データを使ってシミュレーション評価を実施した.その結果,豊田市をケーススタディとした場合には,適応型モーダルシフトは費用対効果で有望な交通施策であることを確認した.また,適応型モーダルシフトと道路建設を同時に実施することで,持続的な渋滞緩和効果を得られることも確認した.