<p>近年、公衆衛生の分野では、健康の社会的決定要因に基づく健康格差是正の取り組みが強く求められている。本研究では、その考え方を、学歴や給与といった従来扱われているマクロな変数ではなく、人の生活に密着した現象に適用することでイノベーションを起こす方法論の探索を行っている。具体的には、東京消防庁から提供された3万件の転倒による高齢者の救急搬送データを用いて、事故の発生状況を知識グラフ化し分析を行った。その結果を用いて転倒の生活環境的決定要因を検討した結果、操作可能性のある要因の1つに「身体保持性」があることが分かった。この知見を生活空間デザイナーと共有し、適切な空間デザインを通じて身体保持機能の恒常性を確保する新たな生活空間のコンセプト「ホメオスタティック空間デザイン」の作成と、そのProof Of Conceptを行うためのプロトタイプの開発を実施した。本稿では、まず、高齢者の救急搬送データの知識グラフ化とその分析結果について述べ、転倒の生活環境的決定要因を議論する。また、構築した身体保持機能を有する生活空間について述べる。</p>