アブストラクト |
外殻が部分電離したイオンのKαスペクトルは,プラズマ温度推定に有効である。高強度レーザーによるプラズマ生成では,中Z原子のKαスペクトルによるプラズマ温度推定を実施してきた実績がある。このとき観測されるKαスペクトルは,プラズマ電子温度がおおよそ100eV程度であれば,M殻が完全電離し,L殻が部分電離したイオンからの発光となる[1]。このとき,Kα遷移後のそれらのイオンは,1s^2 2s^2 2p^n (0≦ n≦5)の電子配置を取るため,プラズマ中での存在確率が大きくプラズマ診断に応用したときそのオパシティを無視できない。一方,イオンビームによるプラズマ生成では一般的に達成される温度は低く,観測されるKαスペクトルはM殻が部分電離したイオンの発光となる[2]。このときKα遷移後の電子配置のイオンの存在確率が小さく, そのオパシティを無視できることが期待できる。
本研究では,塩素を添加したプラスチック標的を想定し,完全電離炭素ビームを入射した際のCl-Kαスペクトルの数値シミュレーションを実施した。まずGRASP92およびRATIP[3,4]を用い,Cl-Kα遷移に係るエネルギー準位および振動子強度を計算した。続いて衝突輻射モデルによって,各イオン種のポピュレーションを求解した。M殻が部分電離したKαスペクトルの計算では,そのスペクトル広がりにイオンの熱運動による動的効果を反映したシュタルク広がりを考慮した[5]。最終的に,一次元輻射輸送計算を実施することによって,当該Kαスペクトルのプラズマサイズ依存性を評価した。
これら一連の数値シミュレーションの結果,プラズマ電子温度が数十eVのときに発光するM殻が部分電離したKαスペクトルのオパシティが,M殻が完全電離し,L殻 が部分電離したイオンが発光するKαスペクトルの約1/100以下であることが分かった。講演では,この結果に基づき低温固体密度プラズマに対する当該スペクトルによるオパシティ・フリーなプラズマ診断について考察する。
[1] T. Kawamura, H. Nishimura, F. Koike, Y. Ochi, R. Matsui, W. Y. Miao, S. Okihara, S. Sakabe, I. Uschmann, E. Förster, and K. Mima, Phys. Rev. E 66, pp.016402 (2002).
[2] T. Kawamura, K. Horioka, and F. Koike, Laser Part. Beams 29, pp.135 (2011).
[3] F. A. Parpia, C. Froese Fischer, and I. P. Grant, Comput. Phys. Commun. 94, pp.249
(1996).
[4] S. Fritzsche, J. Electr. Spec. Rel. Phenom. 114-116, pp.1155 (2001). |