本発表では、『空騒ぎ』における小唄の劇的機能を踏まえ、Joss Whedon監督による映画版『空騒ぎ』の該当場面を分析し、映像的特徴を明らかにした。アメコミ映画監督という自己イメージを逆手に取り、白黒映画の小品として『空騒ぎ』を映像化したWhedonは、小唄“sigh no more ladies”の披露をパーティの場面に配置している。Jazz/ボサノバ風メロディの採用、1920年代的な場作り、固定/手持ちカメラによるクローズアップ~ミディアムショットの撮影手法により構築された映像は、先行作であるケネス・ブラナー版がイタリアの庭園を舞台にダイナミックなカメラワークを採用したハリウッド的演出とは対照的である。加えて、参加者達が親密になっていく過程をフレームに収めつつ“sigh no more ladies…/ Men were deceivers ever…”と当の小唄を流し、映像と歌詞を同期させる手法からは、シェイクスピア劇の小唄を映画的演出に翻案して蘇らせるWhedonの映画的演出力が垣間見れる。