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Publication Information


Title
Japanese:持続可能なタンパク質供給システムに向けたトランジションデザイン 
English: 
Author
Japanese: 大橋匠, 藤崎真生子, 髙木聡太, 伊藤浩之, 竹田謙一.  
English: Takumi Ohashi, Maoko Fujisaki, Sota Takagi, Hiroyuki Ito, Ken-ichi Takeda.  
Language Japanese 
Journal/Book name
Japanese: 
English: 
Volume, Number, Page        
Published date Sept. 2024 
Publisher
Japanese: 
English: 
Conference name
Japanese:動物の行動と管理学会2024年度大会 
English: 
Conference site
Japanese:熊本県 
English: 
Abstract 近年、畜産業は環境負荷や動物福祉(AW)の観点から大きな転換期を迎えています。温室効果ガスの排出、飼料生産のための土地利用、水資源の大量消費、家畜排せつ物による汚染など、様々な環境問題が指摘されています。こうした中で、持続可能な畜産業の構築に向け、有機畜産やAWに配慮した飼養への移行が推奨されています。また、肉そのものの消費量を減らすために植物性の代替肉や細胞培養肉の開発も進んでおり、私たちのタンパク質供給・消費スタイルには変革が求められています。しかし、持続可能な食の定義や変革の方向性は未だ定まっていません。私たちの研究グループでは、食のサプライチェーンに関わる様々な立場の方々と共に、現状を把握し、未来を描き、持続可能な食の選択が「当たり前」になる、持続可能な社会に向けた移行プロセスを研究し、実践しています。 私たちは、肉牛生産と食肉市場を中心としたこれまでの研究から、変革を望むステークホルダーが一定数存在するものの、脂肪交雑や歩留まりといった画一的な基準による硬直したサプライチェーンがその移行の障壁となっていると考えています。例えば、沖縄県で経産牛再肥育に取り組む生産者は「再肥育は消費者のためにやっているが、牛にとってはストレスだ。売れるなら再肥育をなくしても良い」と述べ、画一的な肉質基準からの脱却を望みますが、販路がないことを課題として挙げています。また、私たちが共同研究するイタリアンレストランのシェフは、フードロス削減や持続可能な食に取り組む中で、再肥育なしの完全放牧経産牛肉の調達を試みましたが、そのような食材が市場に出回っておらず困難な状況に直面していました。また、私たちが実施した全国調査では、AWに配慮した食品への購買意欲を持つ消費者が一定数いることが明らかになりましたが、持続可能な食材へのアクセスが限られており、実際に手に取ることは難しい状況にあります。これらの観察から、現在の日本のサプライチェーンは画一的な肉質基準に特化しており、新たな価値観が芽生えても実行に移すことが困難であることが分かります。したがって、食糧生産・消費システム全体に対する構造的な変革が求められます。 私たちの研究では、これらの課題に対応するためにトランジションデザインのアプローチを活用しています。トランジションデザインとは、持続可能性に貢献し得るニッチな取り組みをしているフロントランナーと共に現状の課題について共通認識を持ち、望ましい未来のビジョンを策定し、バックキャスティング手法を用いて移行プロセスである「変革の理論」を構築するものです。構築した変革の理論に基づき、研究者が社会変革プロセスに直接関与する参加型アクションリサーチを行い、理論と実践を往還しながら、小規模な社会実験を通じて新たな解決策を評価・検証し、未来ビジョンや変革の理論にフィードバックします。 講演では、上記のようにして策定した変革の理論をもとにした1つの小規模実験を中心にご紹介します。具体的には、再肥育なしの周年放牧・経産牛に着目し、実験的に短いサプライチェーン(Short Food Supply Chain, SFSC)を構築することで、ステークホルダーが持続可能な生産方式に移行する可能性を検証しています。SFSCは、生産者、流通業者、消費者が密接に連携する食の供給体系であり、透明性の向上、生産者と消費者間の信頼関係構築、地域特性に基づく持続可能な取り組み、小規模でも持続的な市場確立といった利点があります。このような強みを活かし、地域に根ざした持続可能な生産方式をどのように普及させていくか議論します。

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